入院翌日は、手術を受ける日であります。
診察を受けてから、まる一ヶ月経ってついに開かれる、わたくしの頭蓋……! 頭蓋骨が開かれたことなんて、ありますか? 僕はありません(でした)。
手術当日と翌日はほとんど「失われた一日」という感じで、おおむね意識の無いままに過ごしたんだけれど、少しメモがあるのでいちおう転記しておこうと思うんだ。
手術室に向かう直前まで、ノートにメモしたり、ツイッターに書き込んだりして、この時はなかなか盛り上がってた感じ。
やっぱりそれなりに不安だったのかも知れないなあ、などと。
20110125
0630
周囲が騒がしく目が覚める。ビニール袋をガサガサしたり、ひげ剃りの音がしたりなど。
昨夜は何度かトイレに立つことになった(水を飲むのも駄目、と言われたので、貧乏くさくも「飲めるうちに」とがぶがぶ飲んだのが原因)、眠ったのは23時くらい。7時くらいまで眠るつもりだったのに、この30分がくやしい。
外はいい天気のようだ。
0830
ツマさん、両親来る。
一緒に写真を撮る。
0840
回診。「ま、がんばりましょう」と言われて肩をポンポンとたたかれる。
軽快なノリ……。
(以降は、術後にある程度回復してからのメモと記憶から)
0850
病室を出る。
手術室までは、T字帯(という名のふんどし)を着け、術着を着て、サンダルでぺたぺたと歩いて行く。
ロビーにいるツマさんと両親に「行ってきますよー」とか言いながら手を振り、看護士さんの後をついてエレベーターへ。
手術室フロアは、廊下の左右にいろんな備品がストックされていたり、扉がいくつもあったりする。奥へと進むに連れてステンレスで出来た部分が増えてきて、手術室に入ってみると、いつか映画だかドラマだかで見たような、ぴかぴかな部屋だった。
なかなか見られるもんじゃないけんねー、と思いながらぐるりと見回していると「大丈夫ですか?」と声をかけられる。
あ、すみません……だいじょうぶでs
手術台の上にはふかふかでほかほかのビニールクッションみたいのが敷かれていて、すごく心地よかった。
あの適温具合はすごい。
周囲には10人くらい? のスタッフが居て、わらわらと集まってそれぞれにいろんなものを僕の身体に着けていく。
額にセンサーのバンドを着け、左腕に点滴の管が繋がり、右腕に血圧測定のベルト、指には心拍だかなんだかのクリップ……盛り上がってきたところで「じゃあフセさん、術着をとりますねー」みたいなことを言われ、はぁ、と返事をするかしないかのうちにするすると脱がされておやおやいつのまにええっとあれまわたくしったら裸じゃありませんこと? なんだろあれ、どういうマジック?
そうこうしているうちに口にはマスクをあてがわれ「はい、じゃあ落ち着いて呼吸してくださーい。麻酔を入れますからねー」とかなんとか、はぁ、そしたらおら、もう眠ってしまうんだべな……と思ってすーはーすーはーしてみたけんども、あれ、えっと、あの……
ぼく、まだ起きてます!
というのを伝えた方が良いのかなと思って、ぴかーーーんと目を見開いてみた。
けどどうということもなく、その数秒後には、んむ、と眠くなって、意識を失ったのでした。
そのあとのことはもちろん覚えていない。
気づけば手術は終わっていたし、傷口は縫い合わされていたし、数日前に笑福亭鶴瓶がテレビでネタとして披露していたカテーテル(おしっこ管ですよ、平たく言えば)だって、もちろん、ちゃあんと接続されていたのでありました。
1600
手術後、ICUへ(これは予定されていたもので、翌日に一般病棟に戻った)。
手術自体は9時ころから始まり、15時くらいまでで、ほぼ予定通り進んだようだ。麻酔が覚めてきたあたりで家族が面会に来る。
いくらか会話したような記憶も在るが、内容はあまり覚えていない。
となりのベッドに年寄りが寝ていて、肉を食べるとか魚を食べるとかいう話をしていたのがやけにうるさく感じられたのと、父に「写真を撮って」と何度か頼んだ(手術前から、とにかく写真で様子を記録しておいてもらうように頼んでいた。今思えば、なんで動画じゃなかったんだろうという気はする……前時代的ですね)。
面会自体は数分で、その後も全く意識がない。
この日、僕が起きていたのはわずかに3時間程度ということになる。ぜいたく!
というわけで、僕が何をしたかっていうと寝ていたばかりなんだけれども、無事に手術は終わり、意識は戻り、まぶしさや痛みを感じることもできた。術後の経過についてはまあ、ややあったんだけれど、脳腫瘍摘出のための手術自体は、すごくスムーズに、上手く行ったんだ(ということらしい。なんていうか、当人としては「状況証拠」からしか判断できないんだよね……)。
【麻酔から覚めたときのことメモ】
最初に看護師さん?から「フセさーん」と呼びかけられて、ぼんやりな意識が戻ると、(後の話しによれば母親が)名前を呼んで「終わったよー」などと。ああそうか、と思いながらツマさんの名前を呼…ぼうとして、いつもの愛称を繰り返すが、他の人は何のことか分からず「え? なんて?」みたいな反応に。うん、そらそうだわ。
呼ばれた当人は少し離れたところでその声を聞きながら「あぁ、えっと、私のことですね」と思いつつ「ここにいるわよ、アナタ!」とかいう反応もはばかられてもじもじしてたらしい。
で、わたくしはというと、愛称で呼ぶ→通じない→あ、看護師さんか(実際には母親)?→えーっとなんて言えば→(いつも愛称で呼ぶので本当の名前がすぐに思い出せない)→一般的には何て言うと通じるんだっけ?→「えーと、あー…おくさん、おくさーん!」とかいう間抜けな思考を展開。奥さんて。
しかし当時は結構必死な感じで、自分の思いを伝えるのにあんなに苦労したことはそう多くない。目が覚めて最初にツマに呼びかけるというのはなかなかに感動的な心理であるけれども、もう少し上手くやってのけるスキルを身につけておきたいところだ。「妻を呼んでくれ」とかなんとか、こう、びしっと、ねえ?